対 談

次世代の不動産人材とは

対談:中山善夫塾頭/西村淸彦教授 司会:清水千弘教授

清水:この15年ぐらいの中で不動産市場と金融の融合が進んで、不動産市場の新しいパラダイムが起きていると言われていますが、このようにマーケット、産業を作っていくときはそれをリードする人材が必要になってくると思います。これまでの不動産市場においてはアメリカをはじめ海外でMBAなどをとって帰国した人々が中核となってきたように思います。中山さんは過去15年、不動産市場の育成に関わってこられましたが、ニューヨーク大学(NYU)大学院に留学されています。なぜ日本にとどまらずにアメリカに行かざるを得なかったのでしょうか。

中山:私がアメリカに留学したのは30歳半ばの頃だったのですが、きっかけは不動産鑑定士資格を取って実務経験を積んでいたけれども、日々の仕事に追われ、将来のことを考えると不動産を体系的に勉強したり、グローバル、あるいはマクロ的な視点でものごとを考えたいと考え始めたことです。当時から不動産教育はアメリカが進んでいましたし、NYUやマサチューセッツ工科大学(MIT)、コロンビア大学などの一流校が不動産プログラムを持っていましたので、留学は必然的なことでした。

清水:アメリカの不動産教育は日本と大きく異なりましたか?

清水千弘氏

清水千弘氏

日本大学スポーツ科学部教授。マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員等を兼務する。東京大学博士(環境学)。シンガポール国立大学不動産研究センター、麗澤大学経済学部元・教授。専門は、指数理論・ビッグデータ解析・不動産経済学。主な著者に、『市場分析のための統計学入門』朝倉書店(2016)、『不動産市場の計量経済分析』朝倉書店(唐渡広志との共著(2007))、『不動産市場分析』住宅新報社(2014)など多数。Fellow of RICS、Member of CRE。

中山:そもそも日本には体系的に不動産実務を学ぶ場がありませんでした。アメリカは日本と違い、実務に役立つことも学問と捉えていて、それを大学が教えてリーダーを育成する、それが大学の役割だという考え方が根底にあると思います。これに実業界も協力して、多くの実務家も教壇に立っているし、学生だけでなく社会人も数多く学んでいるという状況です。

清水:おっしゃるとおり、海外の大学では継続教育を非常に重視して、就職してからも専門性を高められるように大学が門戸を開くようなことをやっていますね。社会で様々な経験をして、その経験の中から課題が見つかり、また学習意欲が沸き、さらに専門性の高い職業人になっていく、良いサイクルがうまくできているのだと思います。西村先生は不動産の研究者として海外と様々なネットワークをお持ちですが、アメリカ的な不動産教育が日本でなかなか生まれてこなかった背景・理由としてはどのようなことがあるとお考えでしょうか。

西村:やはり日本の不動産教育は内製主義ですね。各企業で人材を育ててきたので、そこに大学が関与するということが非常に難しい。また、アカデミックと実務との間はわりとハードルが高いという問題があります。大学は「学問」を教える場所ですから、「実学」を教えるのであれば日本式のビジネススクールが向いていると考えています。

清水:ですが西村先生たちがパイオニアになられて、ここ20年で不動産経済学の分野における学問を切り開いてこられた面もありますね。

西村:そうですね。ですが学問と実務との関係など課題はまだ多いです。理論は研究されていて、色々な手法ができているけれども、実務にあまり活かせていません。たとえば不動産経済学の研究者の多くはどちらかというと官僚出身の人ばかりです。民間企業で実務を経験した上で研究者としても研究し、そしてまた実業界に戻ってその研究を活かす、という人はほとんどいません。

西村淸彦氏

西村淸彦氏

政策研究大学院大学教授。東京大学金融教育研究センター特任研究員(Distinguished Project Research Fellow)。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程卒業、米国イェール大学Ph.D。東京大学経済学部助教授、同大学院経済学研究科教授、内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官(兼任)、日本銀行政策員会審議委員を経て、日本銀行副総裁(2008年3月~2013年3月)。2014年より内閣府統計委員会委員長。2015年秋紫綬褒章受章。

中山:確かにアメリカでは大学における社会人教育が進んでいて、大学自体が実務教育という役割をもっていて、社会人教育に取り組んでいますが、日本にはまだそういったシステムはできていませんね。

清水:まだまだ学問と実務とはかなり距離があるということですね。この先マーケットをパイオニア的に切り開いて行こうとすると、人の教育は非常に大事になってくると思います。そこでお二人にお聞きしたいのですが、今後社会で活躍する人材にはどういったことが必要になってくるでしょうか。

中山:過去15年は金融が不動産をリードした、とも言えますので、「不動産」「金融」「英語」の3つの要素があれば就職もしやすいという時代でしたが、今は状況も変わってきています。これから大事なことは今後どうなっていくか、ということについて考えるということで、多くの情報を集めて体系的に理解し、人と交流し、時代の変化の兆しを見つけて行動する、ということだと思います。グローバルやマクロ的な視点を持って次世代を担う行動力のあるコア人材になっていく…それこそが次世代のリーダーに求められることではないでしょうか。

西村:私はもう少し大きな視点になりますが、ますます「人のネットワーク」や、「目先の機会の有利さに惑わされずキャリアを長くみること」が重要になってくると考えています。東大の卒業生にも送ったメッセージですが、「あなたが選ばれるのではなく、あなたが選ぶのである」ということです。職業も、働く場所も、また良き指導者、よき同僚を「自分が」選ぶ。要は、ネットワークをつくることが非常に重要になってきます。人は離合集散して変わってきますが、その離合集散する中に常に自分がリードしていく、そういった人材であってほしいと思います。また、人はつい簡単な道、近道を選びがちですが、それでは短期的には伸びるけど途中でダメになることが多い。志(ethic)を持ち、それを忘れずに常にそこに立ち戻ること。なにを成すべきか、を社会の視点から考える人であってほしいと思います。

中山善夫

中山善夫

株式会社ザイマックス不動産総合研究所代表取締役社長。ニューヨーク大学大学院不動産修士課程修了。一般財団法人日本不動産研究所で数多くの不動産鑑定・コンサルティングに従事。その後、ドイツ証券にてドイツ銀行グループの日本における不動産審査の責任者を務める。2012年よりザイマックスグループの役員に就任、現在、ザイマックス不動産総合研究所にて不動産全般に係る調査研究を担当。不動産鑑定士、MAI、CCIM、Fellow of RICS、Member of CRE。日本大学大学院理工学研究科不動産科学専攻非常勤講師、ARESマスター「不動産投資分析」科目責任者、不動産証券化協会教育・資格制度委員会委員。

清水:今回の私塾には各方面の方々に参加して頂くので、その中で生徒の皆さまが師と思っていただけるかどうかは我々次第ということですね。選ばれる師となれるように教育を提供していきたいと思います。
ありがとうございました。

ザイマックスザイマックス総研の研究調査