対 談

INTERVIEW
塾の更なる発展をめざして
中山:
2016年に開校したこの塾もおかげさまで2024年に第8期生を迎えることとなりました。卒塾生も125名となり、今後も毎年15~20名のペースで増えていきます。不動産業界の次世代リーダーのネットワークが着実に拡大しています。この場を借りて、当塾に関わっていただいた全ての講師の皆様方と、とりわけ設立当初からアドバイザーとして相談に乗っていただいた清水千弘さんに心より御礼申し上げます。まずは、われわれがこの塾で目指していたものは何かについて振り返ってみたいと思います。
清水:
私が中山さんとお目にかかり、一緒に働いていた時から30年以上が過ぎました。近年においては、AIに代表される新しい技術が登場し、不動産市場も急速に変革が進んでいるところですが、私たちの歴史の中で最も大きなイノベーションは、不動産市場と金融市場が融合し、不動産投資産業が創造されたことだと思います。このようなイノベーションを起こすためには、それをリードする人材が必要でした。私たちが不動産投資市場の創造を目指して研究を開始したのが1995年でしたが、私たちの友人が英国留学から戻ってきてからのことでした。そして、中山さんたちのように、英国だけでなく米国に留学して、当時の最先端の不動産投資理論やその産業を支える鑑定評価技術や金融工学などを学んでこられた方が中核となって、市場を創造されていったものと思います。
対談中の様子
中山:
私がアメリカに留学したのは1990年代後半でしたが、既に不動産鑑定士の資格を持ち、忙しく仕事もしていましたが、これからのことを考えると不動産を体系的に勉強し、広い視野でものごとを考え、行動できる必要性を強く感じたことが留学のきっかけでした。日本と異なり、アメリカでは実務に役立つことも学問と捉えていて、それを大学が教えてリーダーを育成する、それが大学の役割だという考え方が根底にあります。これに実業界も大いに協力して、多くの実務家が教壇に立っているし、学生だけでなく社会人も数多く学んでいるという状況を目の当たりにしました。そして、しっかりとした卒業生のネットワークもある。
清水:
おっしゃるとおり、海外の大学では継続教育を非常に重視して、就職してからも専門性を高められるように大学が門戸を開くようなことをやっていますね。社会で様々な経験をして、その経験の中から課題が見つかり、また学習意欲が沸き、さらに専門性の高い職業人になっていく、良いサイクルがうまくできているのだと思います。一方、日本の場合、各企業で人材を育ててきたので、そこに大学が関与するということが非常に難しい。また、アカデミックと実務との間はわりとハードルが高いという問題があります。21世紀に入り、多くのビジネススクールが誕生し、高い実務経験と知識を持つ方が教壇に立つ機会も増えてきましたが、依然として大学は「学問」を教える場所で、「実学」を教えるのではないという認識が強いようにも思います。
中山:
そのとおりですね。不動産を取り巻く環境が大きく変わり、加速している中で、業界の次の時代を担う、行動力のあるコア人材、リーダーの養成は欠かせないのです。しかし、現実にはそのような場がない。大学は上述のとおりですし、不動産資格団体は会員向けに一定の業務に必要な知識を教えるものの特定少数の教育を目的としておらず、民間企業では自社社員向けの研修は行うものの、幅広く他社を巻き込んだものは難しい。そこで、考えたのが、私塾を立ち上げることです。弊社が音頭を取って事務局となり、カリキュラムの作成や運営を行い、一流の講師と優秀な受講生を集め、「場」を提供することで、実現可能になるのではないかと。このヒントになったのは、吉田松陰の「松下村塾」ですね。明治維新で活躍した人の多くがこの塾から輩出されたわけですから。
対談中の様子
清水:
この先の未来をパイオニア的に切り開いて行こうとすると、人の教育は非常に大事になってくると思います。では、今後社会で活躍する人材にはどういったことが必要になり、この塾で何を教えていくかがポイントになりますね。1つは、世の中の変化を正しく捉え、データなどを分析・活用しながら、将来を予測し、これからの社会と不動産を考える力が必要です。変化には一定の兆しがありますから、その兆しをしっかり捉えることも大切になるでしょう。メガトレンドとして、人口減少や少子高齢化、テクノロジーの進化は避けられません。そのようなトレンドを前提にしつつ、ニーズがどう変化し、不動産ビジネスがどう変化するか…そういった未来志向の思考法が大切です。もう1つは、「人と人とのネットワーク」です。当塾の名誉顧問の西村淸彦先生(東京大学名誉教授、元日銀副総裁)が以前、東大の卒業生にも送ったメッセージをご紹介させていただきます。『「あなたが選ばれるのではなく、あなたが選ぶのである」ということです。職業も、働く場所も、また良き指導者、よき同僚を「自分が」選ぶ。要は、ネットワークをつくることが非常に重要になってきます。人は離合集散して変わってきますが、その離合集散する中に常に自分がリードしていく、そういった人材であってほしいと思います。また、人はつい簡単な道、近道を選びがちですが、それでは短期的には伸びるけど途中でダメになることが多い。志(ethic)を持ち、それを忘れずに常にそこに立ち戻ること。なにを成すべきか、を社会の視点から考える人であってほしいと思います。』この文を書かれていた時に、私は西村先生と一緒に、シンガポールにいました。東京大学とシンガポール国立大学の科目交換を議論されるために訪問されておられたのですか、私を同行させていたのです。そして、そこで私を推薦していただき、シンガポール国立大学の客員教授として教壇に立つこととなりました。私が選んだ良き指導者に導かれ、私の新しい世界が始まり、新しいネットワークができていきました。次は、同じ志を持つ仲間に私たちのネットワークに加わっていただき、私たちが良き選ばれる師となり、一緒に不動産市場の未来を創造していくことができたらと願っています。
中山:
いま清水さんがおっしゃった2点は、まさにこの塾の原点になっていますね。2016年の開校以来、私たちが大切に思ってきた基本的な考え方です。今般、当塾は第2ステージとして、塾の名称を「からくさ不動産塾」から「からくさ不動産みらい塾」に変更することといたしました。その背景には、世の中の変化がさらに加速し、「不動産」だけの視点に止まらない、もっと視野を広げ、社会課題の解決にチャレンジし、「未来」に貢献できる人材育成の必要性が高まってきていることがあります。さらに、当塾で学んだ塾生が大いに“みらい”に活躍して欲しいという期待も込めてあります。嬉しいことに、既に卒塾生の数も増え、活躍してきており、新しいカリキュラムの特徴の1つとしては、卒塾生が講師として登壇し、後輩を育てるサイクルが始まることが挙げられます。これからも当塾は、微力ながら、ひたむきに次世代リーダーの育成を続けていきます。社会と不動産の“みらい”について、一緒に考え、議論し、行動できる志の高い人が集まり続ける「場」を提供し、皆さんのその拠り所となることを目指しています。引き続きよろしくお願いします。
清水:
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
中山:
本日はありがとうございました。
対談中の様子
清水 千弘 氏
一橋大学大学院ソーシャル・データサイエンス研究科教授、麗澤大学国際総合研究機構副機構長・学長補佐、日本大学大学院スポーツ科学研究科非常勤講師。東京大学博士(環境学)。プリティッシュ・コロンビア大学、シンガポール国立大学、香港大学客員教授、マサチューセッツ工科大学Research Affiliate、麗澤大学経済学部教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。専門は、指数理論・ビッグデータ解析・不動産経済学。主な著者に、『市場分析のための統計学入門』朝倉書店(2016)、『不動産市場の計量経済分析』朝倉書店(唐渡広志との共著(2007))、『不動産市場分析』住宅新報社(2014)など多数。Member of CRE。
中山 善夫
株式会社ザイマックス不動産総合研究所代表取締役社長。ニューヨーク大学大学院不動産修士課程修了。一般財団法人日本不動産研究所で数多くの不動産鑑定・コンサルティングに従事。その後、ドイツ証券にてドイツ銀行グループの日本における不動産審査の責任者を務める。2012年よりザイマックスグループの役員に就任、現在、ザイマックス不動産総合研究所にて不動産全般に係る調査研究を担当。不動産鑑定士、MAI、CCIM、Fellow of RICS、Member of CRE。ARESマスター「不動産投資分析」科目責任者、不動産証券化協会教育・資格制度委員会委員。